育成就労では、外国人本人が転籍を希望しただけで、すぐ別の会社へ移れるわけではありません。
本人の意向による転籍では、原則として、分野ごとに定められた技能試験と日本語試験に合格し、さらに転籍制限期間などの条件も満たす必要があります。 一般的な基準は、技能が「育成就労評価試験の初級相当」、日本語が「A2.1相当以上」です。厚生労働省
ただし、介護など一部では日本語の基準が高く設定されています。また、技能・日本語に合格していても、同じ業務区分の転籍先が見つからない、転籍先が要件を満たさないなど、別の理由で転籍できない場合もあります。
2026年9月27日現在の制度内容を基に、「本人が移りたいと言っているのに、なぜまだ移れないのか」を会社側でも確認できるよう整理します。
転籍時の技能は「1年経過時」の水準が基本
本人意向による転籍で求められる技能水準は、一般的には育成就労開始から1年経過時までに求められる水準と同じです。
国の分野横断的な整理では、
| 時点 | 技能水準 |
|---|---|
| 就労開始時 | 原則として技能試験なし |
| 1年経過時 | 育成就労評価試験(初級) |
| 本人意向の転籍時 | 育成就労評価試験(初級) |
| 育成就労終了時 | 特定技能1号評価試験または育成就労評価試験(専門級) |
という段階になっています。厚生労働省
ただし、実際の試験名称は分野・業務区分によって異なります。
たとえば介護なら「介護育成就労評価試験(初級)」、物流倉庫なら「物流倉庫分野育成就労技能評価試験(初級)」です。製造業では、主たる技能によって育成就労評価試験や技能検定など、該当する試験が異なります。法務省
そのため会社側では、「初級に合格していますか」とだけ確認するのではなく、外国人の育成就労計画に記載された業務区分・主たる技能に対応する試験を確認します。
日本語は1年目のA1では足りない
転籍時に特に間違えやすいのが日本語要件です。
育成就労では一般に、開始から1年以内に求められる日本語能力はA1相当以上ですが、本人意向による転籍では原則A2.1相当以上が求められます。厚生労働省
つまり、
「1年目に必要な日本語試験には合格している」
というだけでは、本人意向転籍の日本語要件を満たしているとは限りません。
たとえば工業製品製造業の一部業務では、転籍時の日本語水準として、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)のA2.1相当以上または日本語能力試験(JLPT)のN4以上が示されています。法務省
具体的にどの試験で確認するかは、外国人が働いている分野・業務区分の分野別運用方針で確認します。
日本語講習を受けただけでは転籍要件を満たさない
就労開始前の日本語要件では、A1相当の試験合格の代わりに、一定の日本語講習を100時間以上受ける方法があります。
一方、本人意向による転籍では、分野別運用方針で定められた技能試験と日本語能力試験への合格が必要です。法務省
そのため、
「会社で日本語研修を100時間受けた」
「日本語学校へ通っている」
だけでは、転籍要件を満たしたことにはなりません。
転籍希望が出たときは、講習の受講時間ではなく、必要な日本語試験に合格しているかを確認します。
介護と鉄道の一部はA2.1より高い
A2.1は全分野一律ではありません。
介護分野で本人意向転籍をする場合は、「介護育成就労評価試験(初級)」に加え、日本語はA2.2相当以上が必要です。転籍制限期間も原則2年とされています。厚生労働省
鉄道分野は原則A2.1相当以上ですが、「運輸係員」の業務区分についてはA2.2相当以上が必要です。法務省
したがって、「育成就労の転籍はA2.1」と一律に判断しないことが重要です。
| 分野・業務区分 | 転籍時の日本語 |
|---|---|
| 多くの分野 | A2.1相当以上 |
| 介護 | A2.2相当以上 |
| 鉄道・運輸係員 | A2.2相当以上 |
最終的には、その外国人が従事する業務区分の最新の分野別運用方針を確認します。
技能・日本語に合格しても転籍制限期間が残っていれば移れない
試験に合格すればすぐ転籍できるわけでもありません。
本人意向による転籍には、現在の受入れ企業で一定期間育成就労を行う「転籍制限期間」があります。
2026年1月23日に決定された分野別運用方針では、次のように分かれています。厚生労働省
| 転籍制限期間 | 分野 |
|---|---|
| 原則1年 | ビルクリーニング、宿泊、農業、漁業、林業、木材産業、鉄道、リネンサプライ、物流倉庫 |
| 原則2年 | 介護、建設、造船・舶用工業、自動車整備、外食業、工業製品製造業、飲食料品製造業、資源循環 |
ただし、2年とされている分野でも、受入れ企業の判断で転籍制限期間を1年に設定できる仕組みがあります。1年を超える期間を設定する場合は、分野ごとに定める待遇向上措置が必要です。法務省
そのため「この分野は2年だから絶対に2年間転籍できない」とだけ見るのではなく、実際の育成就労計画で転籍制限期間が何年に設定されているかを確認します。
試験に合格していても違う業務区分へは移れない
本人意向転籍は、原則として現在と同じ「業務区分」の中で行います。
たとえば同じ会社の業界に近い仕事でも、制度上の業務区分が異なれば、そのまま本人意向転籍することはできません。
一方、同じ業務区分内であれば、転籍前後で「主たる技能」を変更すること自体は可能とされています。ただし、継続的な育成という観点からは、主たる技能を変更しないことが望ましいとされています。法務省
求人票の職種名が似ているかではなく、現在の育成就労計画と転籍先の業務区分を照らして確認する必要があります。
本人が希望しても移れない主なケース
会社から見れば、転籍希望が出た後は「本人が辞めたいと言っているか」だけではなく、転籍の認定条件を一つずつ確認する必要があります。
本人意向転籍では、主に次のようなケースで、そのまま転籍を成立させることはできません。法務省
- 分野別運用方針で定められた技能試験に合格していない
- 必要な日本語試験に合格していない
- 現在の会社での転籍制限期間を経過していない
- 転籍先の仕事が現在と異なる業務区分になる
- 転籍先が「優良な育成就労実施者」の要件を満たしていない
- 転籍先の育成就労外国人の人数枠を超える
- 転籍先で本人意向転籍者が占める割合の上限を超える
- 民間の職業紹介事業者など、制度上認められていない経路で転籍先の紹介を受けている
- 転籍先による新しい育成就労計画が認定されない
転籍先では、本人意向の転籍者が育成就労外国人全体の3分の1を超えないことなどの制限もあります。法務省
つまり、外国人本人の日本語・技能が十分でも、「受け入れる側の会社」の条件によって転籍できない場合があります。
転籍を申し出ることと実際に転籍できることは別
ここは会社側が分けて考える必要があります。
外国人が「転籍したい」と申し出ることと、転籍先の新しい育成就労計画が認定されて実際に会社を移ることは別です。
技能や日本語が不足しているからといって、「転籍を希望するという申出自体を受け付けない」という扱いにはなりません。
監理支援機関は転籍の申出を受けた場合、まず「やむを得ない事情」がないか確認し、それがなければ転籍制限期間や技能・日本語能力など本人意向転籍の要件を確認します。法務省
会社としては、
申出を受ける
→ 監理支援機関へつなぐ
→ 技能・日本語・期間などを確認する
という順番で考えます。
会社が試験を受けさせなければ転籍を防げるわけではない
本人意向転籍には試験合格が必要だからといって、会社が試験を受けさせなければ転籍を防げるわけではありません。
運用要領では、受入れ企業が転籍を妨害する目的で必要な技能試験や日本語試験を受けさせない、受験を妨害するといった行為は、育成就労計画の認定取消しの対象になり得るとされています。法務省
さらに、そのような妨害行為自体が外国人の権利侵害に当たり、「やむを得ない事情」による転籍が認められる可能性もあります。
したがって会社側は、本人意向転籍の要件を満たしているかを確認する立場ではあっても、試験を受けさせないことで要件を満たせなくすることはできません。
「やむを得ない事情」の転籍は日本語・技能を同じように見ない
ここまで説明した技能試験、日本語試験、転籍制限期間は、基本的に「本人の意向による転籍」の条件です。
暴力、パワーハラスメント、重大な雇用契約違反など、現在の会社で育成就労を続けることが難しい「やむを得ない事情」がある場合は別の扱いになります。法務省
法律上も、やむを得ない事情が認められる場合には、本人意向転籍で求められる転籍制限期間や技能・日本語能力などの基準について例外が設けられています。法務省
そのため、
「日本語試験にまだ合格していないから、ハラスメントがあっても転籍できない」
と判断してはいけません。
ただし、やむを得ない事情の場合でも、転籍は同一の業務区分内が原則です。法務省
転籍希望が出たら会社が最初に確認する3点
外国人から本人意向による転籍希望が出た場合、会社側でまず確認しやすいのは次の3点です。
まず、その外国人の「分野・業務区分」を確認します。次に、育成就労計画で設定した転籍制限期間を確認します。そして、本人が取得している技能試験・日本語試験の合格証明を確認します。
この3点が分かれば、
「まだ期間が足りないのか」
「技能が足りないのか」
「日本語が足りないのか」
を切り分けられます。
そのうえで監理支援機関に、やむを得ない事情の有無と、転籍先側の要件を含めて確認してもらいます。
本人意向による転籍では、「1年働いたか」だけではなく、「必要な技能試験+必要な日本語試験+転籍制限期間+転籍先の条件」までそろって初めて転籍先の計画認定へ進めると考えると整理しやすくなります。
まとめ
育成就労の本人意向転籍では、一般的に、1年経過時と同程度の技能試験への合格と、日本語A2.1相当以上の試験合格が必要です。
ただし、介護はA2.2相当以上、鉄道の運輸係員もA2.2相当以上など、分野・業務区分による違いがあります。法務省
さらに、技能・日本語試験に合格していても、転籍制限期間、同一業務区分、転籍先の優良要件、人数枠などを満たさなければ本人意向転籍は成立しません。
外国人から転籍希望が出たら、まず育成就労計画と試験の合格証明を用意し、「業務区分・転籍制限期間・技能試験・日本語試験」の4点を監理支援機関と確認するところから始めます。