育成就労外国人が転籍したいと言った|会社は申出を止められる?

育成就労外国人から「別の会社へ移りたい」と言われても、会社がその申出自体を止めることはできません。

正式な申出書を受け取った場合、会社が「転籍を認めない」と判断して受取りを拒否することはできず、監理型育成就労であれば、遅滞なく監理支援機関へ通知する必要があります。また、転籍を申し出たことを理由に解雇するなど、不利益な取扱いをすることも認められていません。

ただし、申出ができることと、実際に転籍できることは別です。

本人意向による転籍には、転籍制限期間、技能・日本語能力、転籍先の要件などがあります。一方、ハラスメントや重大な契約違反など「やむを得ない事情」がある場合は、本人意向の転籍とは別に判断されます。

2026年9月27日現在、育成就労制度は2027年4月1日から始まる予定です。この記事では、制度開始後に外国人から転籍希望を伝えられた会社が、最初にどう対応すればよいのかを整理します。

「まだ1年たっていないから受付できない」はできない

本人意向による転籍には、分野ごとに1年以上2年以下の転籍制限期間があります。

そのため、「まだ転籍できる時期ではないなら、申出も受けなくてよい」と考えやすいところですが、これは違います。

運用要領では、転籍制限期間は転籍先の新しい育成就労計画が認定される時点で満たしていればよいとされています。そのため、申出時点で転籍制限期間を経過していなくても、監理支援機関は転籍先を探すなどの支援を行う必要があります。

つまり、たとえば転籍制限期間が1年で、外国人が就労10か月目に転籍希望を申し出たとしても、

「あと2か月たっていないから申出書は受け取らない」

という扱いはできません。

申出を受けたうえで、転籍可能な時期やその他の要件を確認していくことになります。

口頭で「転籍したい」と言われたら書面を案内する

法律上の転籍希望の申出は、書面で行います。

ただし、外国人から最初に「ほかの会社で働きたい」と口頭で相談された場合に、「書面じゃないから知らない」で終わらせるものではありません。

会社は「育成就労実施者の変更希望の申出書」の提出を案内します。

申出書には、本人の氏名・国籍・生年月日、現在の育成就労実施者、転籍を希望する理由などを記載します。

さらに、必ず公式様式でなければ受付できないわけでもありません。

必要な事項が記載された別の書面で申出があった場合も正式な申出として扱われるため、会社は「この用紙ではない」という理由だけで受取りを拒否できません。

会社が申出を受けたら「認める・認めない」を決めるのではない

監理型育成就労で会社が転籍希望の申出を受けた場合、会社が単独で転籍の可否を決定する仕組みではありません。

会社側の基本的な流れは次のようになります。

段階会社側の対応
口頭で転籍希望を聞いた申出書の提出を案内する
申出書を受け取った内容を確認し、本人へ写しを交付する
監理型の場合遅滞なく監理支援機関へ通知する
その後監理支援機関が事情・転籍要件を確認する
転籍可能性がある転籍先探しなど必要な支援へ進む
転籍先が決まる転籍先が新たな育成就労計画の認定を受ける

監理型の会社が申出を受けた場合は、申出書の写しを付けて監理支援機関へ遅滞なく通知します。監理支援機関は内容を確認し、外国人育成就労機構への届出などを進めます。

会社の役割は、外国人が転籍したいと言った段階で「許可するかどうか」を決めることではありません。

最初に確認されるのは「やむを得ない事情」がないか

転籍希望が出た後、単純に本人意向の転籍として処理するわけではありません。

監理支援機関はまず、「やむを得ない事情」による転籍に該当する可能性がないかを確認します。

やむを得ない事情には、外国人本人の都合ではない理由で育成就労を続けられなくなった場合のほか、重大な雇用契約違反、暴行・脅迫・自由の制限などの人権侵害、出入国・労働関係法令に関する不正や著しく不当な行為などが含まれます。

たとえば外国人が、

「給料が説明と違う」
「上司から暴言を受けている」
「契約した仕事と全く違う仕事をさせられている」

といった理由で転籍を申し出ている場合は、単なる「もっと条件のよい会社へ移りたい」という話とは扱いが変わる可能性があります。

会社側で「本人のわがままだ」と決めつけず、申出内容をそのまま監理支援機関へ伝えることが重要です。

やむを得ない事情がなければ本人意向の転籍要件を確認する

やむを得ない事情が確認されない場合は、本人意向による転籍の要件を満たせるかを確認します。

主な要件には、転籍制限期間を経過すること、分野で定められた技能・日本語能力を満たすこと、同一の業務区分内で転籍すること、転籍先が優良な育成就労実施者であることなどがあります。

転籍先にも人数割合などの要件があるため、外国人が「この会社へ行きたい」と希望しただけで転籍が確定するわけではありません。

最終的には、転籍先の会社が新しい育成就労計画を作成し、認定を受ける必要があります。

したがって会社は、

「申出を受ける」

ことと、

「その外国人が制度上転籍できる」

ことを分けて考える必要があります。

転籍を申し出たことを理由に解雇してはいけない

会社として特に注意したいのが、申出後の対応です。

育成就労の基本方針では、会社が転籍に必要な試験の受験を妨害するなど、不当に転籍を制限することや、転籍希望を申し出たことを理由に外国人を解雇するなどの不利益な取扱いをしてはならないとされています。

たとえば、

「転籍したいなら今日で辞めてもらう」
「転籍を取り下げないなら寮から出てもらう」
「転籍に必要な試験は受けさせない」

といった対応は避ける必要があります。

外国人が転籍を申し出ても、実際に転籍するまで現在の雇用関係が当然にその場で消えるわけではありません。

会社は引き留めの話もできない?

転籍希望の理由を本人へ確認したり、会社側で改善できる待遇や職場環境について説明したりすることまで禁止されているわけではありません。

たとえば「夜勤が多いので辞めたい」という話であれば、シフト変更が可能かを話し合うことは考えられます。

ただし、本人が転籍を希望して正式に申し出た場合、その申出自体を拒否したり、不利益を示して取下げを迫ったりすることはできません。

運用要領でも、外国人が本人の意思で転籍を断念した場合には「育成就労実施者の変更希望の申出の取下げ書」を提出する仕組みになっています。

会社として残ってほしい場合も、「転籍を止める」のではなく、本人が残るかどうかを選べる状態で改善案を示すという対応になります。

外国人は会社だけに申出をする必要はない

転籍希望の受付窓口は、現在の会社だけではありません。

監理型育成就労外国人は、現在の育成就労実施者のほか、監理支援機関や行政側へ転籍希望を申し出る仕組みがあります。

そのため、会社が申出を受け取らなければ転籍の手続を止められる、という制度にはなっていません。

外国人が監理支援機関や外国人育成就労機構側へ直接申し出た場合には、会社へ転籍希望があったことが通知され、必要な事実確認などが行われます。

会社としては、申出を会社の外へ出させないようにするより、制度に沿って監理支援機関と情報を共有したほうが対応しやすくなります。

監理支援機関への通知を事実確認が終わるまで待ってはいけない

外国人の説明と会社側の認識が食い違う場合もあります。

たとえば外国人が「契約と給料が違う」と言っているのに対し、会社側では「契約どおり支払っている」と認識しているケースです。

この場合でも、会社側で調査を完了してから申出を処理するのではありません。

監理支援機関から機構への届出についても、「事実確認に時間がかかっている」という理由で遅らせることは認められておらず、確認できない事項は「追って報告」として先に届け出る運用になっています。

「本当に転籍理由が正しいか」と「申出を受けて必要な手続を進めるか」は分けて考えます。

転籍が決まったら会社が新しい勤務先を自由に選ぶわけでもない

本人意向の転籍では、転籍先探しの中心になるのは監理支援機関です。

監理支援機関で転籍先を確保できない場合には、外国人育成就労機構へ支援を要請できる仕組みも設けられています。

また、本人意向による転籍では、監理支援機関、外国人育成就労機構、ハローワークなどによる職業紹介等を利用する仕組みで、一般の民間人材紹介会社を自由に利用して転籍する制度ではありません。

現在の会社が「この会社なら転籍を認める」と転籍先を決める仕組みでもありません。

本人意向の転籍なら会社側に初期費用の補填制度もある

会社側には、「採用や入国、日本語教育などに費用をかけた直後に転籍されたら負担だけが残る」という問題があります。

そのため本人意向による転籍では、一定の要件の下で、転籍先の会社が転籍元の会社へ初期費用の一部を補填する仕組みが設けられています。

補填額は、国が定める額と転籍元での育成就労期間に応じた按分率を使って計算する仕組みです。

会社が転籍申出を拒否して採用費を守る仕組みではなく、転籍を制度として認めたうえで、企業間で一定の費用負担を調整する設計になっています。

「転籍したい」と言われたら最初にすること

外国人から突然「会社を変わりたい」と言われると、会社側は理由を聞いたり引き留めたりすることから始めたくなるかもしれません。

最初に分けて確認したいのは、単なる相談なのか、転籍を希望する意思があるのかです。

本人が転籍を希望しているのであれば、口頭の場合は申出書を案内し、書面を受け取ります。監理型なら、その申出書の写しを付けて監理支援機関へ遅滞なく通知します。

その後に、監理支援機関とともに「やむを得ない事情があるのか」「本人意向の転籍要件を満たすのか」を確認します。

会社が最初に行うのは、転籍を認めるかどうかを決めることではなく、本人の申出を正式な手続につなぐことです。

まとめ

育成就労外国人が転籍したいと申し出た場合、会社が申出そのものを止めることはできません。

正式な申出書の受取りを拒否したり、「まだ転籍制限期間が終わっていない」という理由で受付を拒否したりすることもできません。申出を理由とした解雇などの不利益な取扱いや、必要な試験を妨害して転籍を不当に制限することも認められていません。

一方で、申出をしたから必ず転籍できるわけではありません。

やむを得ない事情による転籍なのか、本人意向による転籍なのかを確認し、本人意向の場合は転籍制限期間、技能・日本語能力、転籍先などの要件を満たす必要があります。

外国人から「転籍したい」と言われたら、まず申出を正式に受け付け、監理型であれば監理支援機関へ遅滞なく共有してください。その後に理由や要件を確認する順番になります。

出典

出入国在留管理庁|育成就労制度Q&A

出入国在留管理庁|育成就労制度運用要領

外国人技能実習機構|育成就労制度様式一覧

e-Gov法令検索|外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律施行規則