育成就労外国人から「会社を辞めたい」と言われたとき、企業が最初に確認するのは退職届ではありません。
まず、
「今の会社だけを辞めて、日本では働き続けたいのか」
「育成就労そのものをやめて帰国したいのか」
を本人に確認します。
育成就労では、一定の条件を満たせば本人の希望による転籍が認められます。また、暴力やパワーハラスメントなど「やむを得ない事情」がある場合には、通常の本人意向転籍とは異なる扱いになります。
そのため、「辞めたい=帰国」と決めつけず、本人が何を希望し、なぜ辞めたいのかを確認することが最初の対応です。
退職・転籍・帰国は同じ意味ではない
「退職」「転籍」「帰国」は、同じ手続ではありません。
| 本人の希望 | 何を意味するか |
|---|---|
| 今の会社を辞めたい | 現在の雇用契約を終了したい |
| 別の会社で育成就労を続けたい | 転籍を希望している |
| 日本での育成就労をやめたい | 帰国などを検討する |
| 今の会社を辞めて別の在留資格で働きたい | 在留資格変更を別途検討する |
特に注意したいのが「退職」です。
退職は現在の会社との労働契約を終了することであり、その後日本で育成就労を続けるなら転籍の手続が必要になります。
反対に、育成就労を続けず帰国したいのであれば、転籍先を探す必要はありません。
つまり、「辞めたい」と言われた段階では、まだ会社側の対応は決まりません。
最初に本人へ確認するのは2つ
最初の面談では、大きく2点を確認します。
1つ目は、辞めた後にどうしたいのか。
- 別の会社で働きたい
- 日本にはいたいが育成就労は続けたくない
- 母国へ帰りたい
- まだ決めていない
2つ目は、なぜ辞めたいのか。
- 給与や労働時間への不満
- 仕事内容が合わない
- 職場の人間関係
- 暴力やハラスメント
- 契約時に聞いた条件と実際が違う
- 家庭事情
- ホームシック
- 病気・けが
- 別の会社で働きたい
理由を確認するのは、本人を引き留めるためだけではありません。
転籍の扱いが「本人意向」なのか「やむを得ない事情」なのかを判断するためです。
本人が日本語で十分説明できない場合は、通訳を入れるなど、本人の意思と理由を誤解しない方法で確認します。
別の会社で働きたいなら転籍を確認する
本人が「日本では働き続けたいが、この会社を辞めたい」と希望している場合は、転籍を検討します。
育成就労制度では、技能実習制度と異なり、一定の条件を満たした本人意向による転籍が認められています。
本人意向による転籍では、主に、
- 分野ごとの転籍制限期間を経過している
- 必要な技能水準を満たしている
- 必要な日本語能力を満たしている
- 転籍先が所定の要件を満たしている
- 同じ業務区分内で転籍する
といった条件があります。
転籍制限期間は分野によって1年以上2年以下で設定されます。
そのため、「辞めたいなら別の会社へすぐ移ればよい」とは限りません。
まだ転籍制限期間前でも相談を止めない
本人意向による転籍では、原則として所定の転籍制限期間を経過する必要があります。
ただし、外国人が転籍希望を申し出た時点でまだ転籍制限期間を経過していなくても、監理支援機関が転籍先を探すなどの支援を始めること自体は必要とされています。
転籍制限期間を満たす必要があるのは、転籍先の新しい育成就労計画が認定される時点です。
したがって、
「まだ1年経っていないから転籍の話は受け付けない」
という処理にはしません。
まず転籍希望として受け止め、理由を確認し、監理支援機関と連携して条件を確認します。
暴力・ハラスメントなどが理由なら扱いが違う
辞めたい理由に、
- 暴力
- パワーハラスメントなどの人権侵害
- 重大な法令違反
- 重大な契約違反
などが含まれている場合は、通常の本人意向転籍とは分けて考えます。
「やむを得ない事情」が認められる場合は、本人意向転籍で求められる転籍制限期間や技能・日本語能力などの一部の条件を満たしていなくても、転籍できる仕組みになっています。
そのため、
「まだ転籍できる時期ではないから我慢してください」
と先に結論を出してはいけません。
まず辞めたい理由を確認し、「やむを得ない事情」に該当する可能性がある場合は、監理支援機関へ速やかに連絡して対応します。
転籍したいと言われたら監理支援機関へ連絡する
監理型育成就労の場合、転籍対応を企業だけで進めるものではありません。
監理支援機関には、外国人から転籍希望があった場合に事情を確認し、やむを得ない事情による転籍なのか、本人意向による転籍なのかを確認する役割があります。
転籍可能な場合には、新しい受入れ企業や他の監理支援機関との連絡調整など、育成就労を継続するための支援も求められます。
育成就労外国人から企業へ直接「会社を変わりたい」と言われた場合も、社内だけで処理せず、監理支援機関へ連絡します。
実際に離職した場合は届出も必要になる
育成就労外国人が実際に退職して、現在の会社で育成就労を続けられなくなった場合には、「育成就労実施困難時届出」の対象になります。
運用要領では、
- 病気・けが
- 就労意欲の喪失
- ホームシック
- 行方不明
- 実際の離職
- 途中帰国
などにより育成就労の継続が困難になった場合も届出対象とされています。
監理型の場合は監理支援機関が届出や転籍支援に関与します。
したがって「本人から退職届を受け取ったので会社側の対応は終了」ということにはなりません。
転籍先が決まるまでの支援も必要になる
本人が育成就労を続けたい場合、転籍先がすぐ決まるとは限りません。
育成就労実施者や監理支援機関には、次の受入れ先を探すための連絡調整だけでなく、次の育成就労先が確保されるまでの生活面などについて必要な支援を行うことも求められています。
そのため、
「うちを辞めるなら、今日から住居も出てもらう」
といった処理を先に決めるのではなく、監理支援機関と本人の今後を確認してから対応します。
住居、生活費、雇用保険、転籍先の確保状況などを含めて整理する必要があります。
帰国したい場合は本人の意思を確認する
本人が、
「別の会社へ移りたいわけではない」
「日本で働くのをやめて国へ帰りたい」
と希望している場合は、帰国手続へ進みます。
育成就労制度では、途中帰国する場合にも育成就労実施困難時届出が必要になります。
また、本人が帰国を希望していることを確認できるよう、意思確認に関する書面を保管する仕組みも設けられています。
「辞めたい」と言ったことだけを理由に、企業側が帰国すると判断するのではなく、
本人自身が帰国を希望しているか
を明確に確認します。
帰国費用は本人負担とは限らない
監理型育成就労では、帰国旅費は監理支援機関が全額負担する仕組みです。
さらに、外国人が円滑に帰国できるよう、帰国までの生活支援や空港までの対応など必要な措置も求められています。
監理支援機関は帰国旅費を監理支援費として受入れ企業から徴収できますが、その費用を育成就労外国人本人へ負担させることはできません。
途中で辞めたことを理由に、
「航空券は自分で買って帰ってください」
と単純に処理できる制度ではありません。
「辞めたい理由」を会社側だけで決めない
企業側では、
「人間関係が嫌になっただけだろう」
「もっと給料の高い会社へ移りたいのだろう」
と思っていても、本人の認識が違う場合があります。
例えば本人は「上司から怖い言動を受けている」と考えているかもしれません。
この違いは重要です。
単純な本人意向転籍なのか、やむを得ない事情による転籍なのかで適用される条件が変わるためです。
特にハラスメントや契約条件の相違などが疑われる場合は、会社だけで「問題なし」と結論を出さず、監理支援機関を通じて事実関係を確認します。
監理支援機関には、転籍申出があった場合、まずやむを得ない事情に該当し得る事実がないか確認し、その事情がなければ本人意向転籍の要件を確認するという順序が示されています。
退職できるかと転籍できるかは別の問題
もう一つ混同しやすいのが、「転籍できないなら退職もできない」という考え方です。
退職は労働契約の終了に関する問題です。
一方、転籍は育成就労制度の中で別の企業へ移って育成就労を継続するための制度です。
労働契約をいつ終了できるかは、期間の定めの有無、契約期間、退職理由などによって扱いが異なります。例えば期間の定めのない雇用と有期雇用では退職に関するルールが同じではありません。
したがって、
転籍制限期間中だから退職も認めない
と単純に考えるのではなく、労働契約上の退職と、育成就労制度上の転籍を分けて確認します。
会社が最初にすること
育成就労外国人から「辞めたい」と言われたときは、まずその場で帰国日を決めたり、退職届だけを書かせたりするのではなく、本人の意思を整理します。
確認する順番はシンプルです。
今の会社を辞めた後、日本で育成就労を続けたいか。
続けたいのであれば、次に、
なぜ今の会社を辞めたいのか。
を確認します。
ここで、
- 通常の本人意向による転籍なのか
- やむを得ない事情による転籍の可能性があるのか
を分け、監理型なら監理支援機関へ連絡します。
本人が日本での育成就労を続けず帰国を希望するのであれば、意思確認をしたうえで途中帰国の手続へ進みます。
「辞めたい」という一言から退職・転籍・帰国の処理を決めるのではなく、「辞めた後にどうしたいか」と「なぜ辞めたいか」の2つを最初に確認する。
これが企業側の最初の対応です。
出典
出入国在留管理庁|育成就労制度Q&A 公式ページ
出入国在留管理庁|育成就労制度運用要領 公式ページ
外国人技能実習機構|育成就労制度について 公式ページ
厚生労働省|外国人育成就労制度について 公式ページ